協会誌巻頭言

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パレアでの講演

公益社団法人熊本県精神科協会 理事 松本武士

先日の令和元年8月5日,熊本県主催の思春期精神保健対策専門研修会がパレアにて開催されました。一日掛かりの勉強会で,客席300人の所に550名の参加応募があったそうです。当日の私は, 超満員御礼の前半トップバッターという大役で緊張しており,皆さんの真剣な眼差しを裏切らないように精神統一して出番を待っている間に,精神保健福祉センターの富田所長より,冒頭の挨拶がありました。そこで「今日参加された方々はラッキーで,プレミアムチケットです。また How to を学ぶのではなく今日の話を基にそれぞれ自分の言葉で解釈できるような勉強会にして欲しい」と, 自分自身で考えることの重要性が込められたメッセージが送られ,会場全体が引き締まる内容の話でありました。

その言葉から,久しぶりの大勢の前で喋る緊張感はさて置き,「よしいつもしていることを言葉にするだけだ。自分の考えが少しでも皆様のお役に立てれば」との気持ちに切り換わり,激励の言葉で箔を付けて頂いた感謝とともに静かなる闘志へと移り変わり,冷静な発表へと繋げていくことができました。話の内容は,後程多少触れることにしますが,参加者の内訳は,学校の先生,医療, 福祉,行政関係の方々で多方面に渡っておりました。児童,思春期の課題は枚挙に暇がないくらい, 日々のニュースや新聞等で掲載されてくる虐待や引きこもり,虐め,不登校などの問題ばかりでなく,養育機能低下からの過干渉,過保護,放任といった問題からの子どもの反抗の低年齢化,適応障害の増加,発達障害,愛着障害など,大人サイドから見ると家族機能の脆弱化,コミュニケーションの低下,携帯,ゲームの普及,産後うつ,

さて,当日のメインイベントは,国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦先生より,「人は なぜ依存症になるのか~自己治癒仮説と自傷行 為」と題した講演でありました。

今や依存症,自傷行為の支援等の研究では一世 風靡されておられ,話し口調も理路整然とされ, 漫談家のように会場を笑いで包み込まれていく勢 いは流石と言わざるをえない話しっぷりであり, 私のような無知の人間にもわかり易く依存症の病 理や支援の筋道をご教示くださり,依存症を考え る上での「孤立」といった問題をいかに大切に取 り扱っていくことが,予後に大きくに関係してい くことが改めて再認識することができましたが, 大変な作業であることも痛感させられました。ところで,私の発表と申しますと,昨年10月に竣工した「児童思春期病棟の傾向~愛着の観点」
という演題でありました。まずは病棟の取り組み, 治療プログラム,子どもを見る上での心構えといった内容が前半で,後半は疾患・障害論ではなく全人的視点を重点に,人格の構成要素,生物学的・心理社会的考え方,ライフサイクル,そして愛着タイプ,愛着障害といった内容でした。自分にとっては今までの集大成といった,壮大ではありますが,脈略のない話になってしまったかもしれません。しかし,今回の講演で一番主張したかったことは,発達障害論に世の中が偏ってしまい,子どもの問題は全て発達障害で片づけてしまい,発達障害原因論からの支援,そこがうまくいかないと環境刺激原因論にばっかりに目が向いてしまう風潮は否めず,そういった原因追究論ばかりが優先されるこの時代に警鐘を鳴らす必要性を 感じていたことです。そこで,当病棟ではどう なっているか探ってみることと致しました。入院 前診断で神経発達症と付いている割合を出してみたところ93% の診断率が出ました。そして自閉スペクトラム症を中心とした対応(視覚化,構造 化,スケジュール化,感覚統合等)を治療主軸に おいて対応したのか,それとも従来からの精神医 療の基礎的な力動的な関わりを主軸において治療したかの統計を出してみたところ,58% が力動に重きを置いて治療したとのデータとなりました。 このことだけで,明確なことを公然と発するには短絡的すぎますが,これからはより一層,発達障害論も含めた全人的,包括的な視点で子どもの支援を模索していくことが重要であり,また今回の講演の出席者からも考えても他機関との連携は必須であり,その支援指針をしっかりと発信していくこと,また引き続き,このデータの蓄積につれての信憑性を高いものに確立できるよう努めて参りたいと思います。

 

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