協会誌巻頭言

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東京オリンピックとCOVID-19

公益社団法人熊本県精神科協会 理事 信岡幸彦

偶然,1964年東京オリンピックの選手村食堂で使われたオリンピック・メニューを見ることができた。帝国ホテル第11代料理長村上信夫氏は選手村の富士食堂で料理長を務め,延べ60万食という当時五輪史上最大規模の給食を成功させた。この給食事業は日本に冷凍技術の革新と普及をもたらし,サプライセンター設置による調理技術の効率化をもたらした。

1964年の東京オリンピックは国を挙げた一大プロジェクトであった。代々木競技場などの競技施設,首都高,モノレール,地下鉄といった大規模な社会資本の整備が進められ,東海道新幹線は開催直前に開通し,ホテルも多数建設された。また,電子化された計測や人工衛星による同時テレビ中継など日本の技術力を証明した。テレビの購入が増加し個人消費が活性化し,オリンピック景気と呼ばれた。この年は,敗戦国から名実共に脱するきっかけとなった。精神科病院も昭和30年代から40年代にかけて次々と開設された。

前回の東京オリンピック直後,1965年の出生数は182万人,自然増は112万人であった。2019年の出生数は初めて90万人を切って86万人まで減少し,51万人の自然減少という衝撃的な結果であった。最も人口の少ない県,鳥取県(57万人)に近い人口が減少したことになる

出生数は前年と比べて,5万4千人減少し産婦人科の病床稼働率を5%下げ,産婦人科の経営に厳しい影響があった。産婦人科の経営が立ち行かなくなると,将来,出生数が回復した時に出産ができなくなる。

総人口は2008年の1億2,800万人をピークに減少し,少子化,人口急減,超高齢が現実となった。世界は人口爆発を起こしているが,日本は人口が減少する数少ない国である。人口構造の変化が社会や制度を変える時代が始まり,精神科も病床稼働率の減少等影響が大きい。

この原稿を書いているときに,WHO が新型コロナウイルス感染症のパンデミックを表明し,オリンピックどころではなくなった。アメリカでは2019年10月に,全米有数の医学部であるジョンズ・ホプキンス大学健康安全センターは,SARSと同程度の死亡率(10%)の新型コロナウイルス感染症がパンデミックに蔓延すると仮定した演習を行った。Event201と呼ばれ,半年後に全世界にパンデミックに蔓延し,1年後に全世界で6,500万人が死亡するというショッキングな内容である。

アメリカは1月31日に中国からの渡航者を入国禁止した。日本は3月9日にやっと入国制限を行った。遅きに失したうえに,アメリカの2週間強制隔離に対して,日本は法的拘束力のない入国制限である。感染対策は安全保障上重要で,今こそ政治に翻弄されない日本版CDC 創設を急ぐべきだと思う。

 

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