協会誌巻頭言

当協会について

テクノロジーとの共存

公益社団法人熊本県精神科協会 理事 宮内大介

菊陽町に TSMCの工場が完成し,半導体バブルなどと言われて報道等が盛り上がっている。その裏では,家賃の高騰にて店舗の廃業(脳神経科のクリニックまでも閉院)が続くなど,良いことばかりではないようだ。

とはいえ,IT関連のテクノロジーの進歩にはとても恩恵をうけている。マイナ保険証による資格認証により,受付での保険証番号確認や転記の簡略化ができた。オンライン診療では,治療者,患者双方の負担軽減につながっている。そのほかいろいろとメリットを感じる事が増えた。

最近,体調を崩して,2週間ほど寝込んでいたのだが,自宅からリモートで会議に参加できたし,オンラインで診察をすることもできてかなり助かった。寝たきりに近い状態の時でも,スマートスピーカーに「アレクサ」と声をかけると,天気予報やニュースを教えてもらえ,BGMやラジオも聞けるし,電気やエアコンの ON/OFFもできた。MRI検査のために受診した病院では,スマートホンをかざして支払いを済ませられた。

キャッシュレス決済はとても便利であり,コンビニエンスストアやスーパーマーケットではスマートホンやクレジットカードをかざせば支払いが済むし,ポイントもスマートホンで管理できる。どこでいくら使ったかも,アプリで確認できる。おかげで現金を使う機会はめったになくなった。こうした暮らしに慣れていたところで,スマートホンをタクシーに置き忘れて困ったことがあった。タクシーを降りてすぐに,コンビニによって会計をしようとして気づいたのだが,すでにタクシーの姿はなかった。現金払いをして,急いで帰宅し,家族のスマートホンを借りて,タクシー会社へ電話連絡し,受け取りに行くための地図検索等をして事なきを得た。

医療現場での AI活用も進んできており,すでに心電図の判読では,AI判定を参考にしているし,レントゲンや CTの撮影や読影にも AIが活用され始めている。患者の姿勢を検知して転倒防止しようとするツールや見守りロボットも開発されている。精神科領域においては,患者の表情の変化等を AIで評価して精神症状の評価に用いるツールの研究がされているとの学会発表があった。とはいえ,精神科の診療においては,対話やケースワークなどが重要なので,すべて AIに奪われてしまう可能性は低い。便利なテクノロジーをうまく活用しながら,人でなければできないような診療技術はこれからも磨き続けていくことが大切であると感じている。

 

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